冠水した道路に、なぜ入ってしまう?「自分なら大丈夫」が招く危険と人間心理

夏になると、台風やゲリラ豪雨による大雨が増えてきます。

テレビのニュースを見ていると、そんな大雨のたびに目にするのが、

「冠水した道路を走る車」

の映像です。

まだ水深が浅そうな道路なら、「これくらいなら通れるかな?」と思ってしまう気持ちも分からなくはありません。

しかし、中には明らかに水深が深くなっている場所へ進入し、そのまま動けなくなってしまう車もあります。

しかも、車高の高いSUVや4WD車だけではありません。

軽自動車やコンパクトカー、セダンなどが、かなりの水深になった道路へ入っていく映像を目にすることもあります。

ニュースを見ている側からすると、

「いやいや、なんでそこに入っていくの?」

と思ってしまいますよね。

では、危険だと分かりそうなのに、なぜ人は冠水した道路へ入ってしまうのでしょうか?

今回は、冠水道路に進入してしまう**「人間の心理」と、実際に起こり得る「車の危険」**について考えてみたいと思います。


なぜ冠水した道路に車で入ってしまうのか?

冠水した道路に進入して車が立ち往生するニュースを見ると、「無謀な運転だ」と感じるかもしれません。

もちろん、危険な場所へ進入しないことが一番です。

ただ、こうした行動には単純な「無謀さ」だけではなく、人間が持っている心理的なクセも関係しています。

1.「これくらいなら大丈夫」という正常性バイアス

人間には、突然危険な状況に置かれたとき、

「まさか自分にそんなことが起こるわけがない」

と考えてしまう傾向があります。

これは「正常性バイアス」と呼ばれる心理状態の一つです。

例えば、道路が少し冠水していたとしても、

「前の車は普通に走っている」

「まだ道路は見えている」

「この程度なら大丈夫だろう」

「自分の車なら行けるだろう」

と判断してしまうことがあります。

しかし、冠水道路の怖いところは、見た目だけでは本当の水深が分からないことです。

水が濁っていれば路面の状態も確認できません。

さらに、道路の場所によって水深が大きく違うこともあります。

特にアンダーパスなどでは、入り口では浅く見えていたのに、進んでいくと急激に水深が深くなることがあります。

「今まで大丈夫だった」という経験が、かえって危険な判断につながることもあるのです。


2.「前の車が行けたから、自分も行けるだろう」

これも非常に怖い心理です。

前を走っている車が冠水した道路を通過すると、

「あの車が行けたなら、自分も大丈夫だろう」

と思ってしまうことがあります。

しかし、車はすべて同じではありません。

例えば、

  • 車高の高いSUV
  • 大型車
  • 車高の低いセダン
  • コンパクトカー
  • 軽自動車
  • EV
  • ハイブリッド車

など、それぞれ車体の構造や吸気口の位置、電装系の配置などが異なります。

さらに、同じ車でも進入する速度や水流、水深によって結果が変わります。

JAFの冠水路走行テストでも、同じ水深でも速度が高くなることで車が巻き上げる水量が増え、エンジンルームに大量の水が入るケースが確認されています。

つまり、

「前の車が通れた=自分の車も通れる」

とは限りません。

むしろ、前の車が通れたことで「大丈夫」という安心感を与えられてしまうことのほうが怖いのかもしれません。


3.「ここで引き返したら迷惑になる」という心理

これも意外と大きな要因ではないでしょうか。

例えば、一本道で後ろに何台も車が並んでいるとします。

そこで目の前の道路が冠水していた。

「戻ったほうがいい」と思っても、

「後ろの車がいるし……」

「ここでUターンしたら迷惑かな……」

「みんな進んでいるし、自分だけ止まるのも……」

と考えてしまう。

その結果、

「もう行っちゃえ!」

となってしまう。

これは人間の「周囲に合わせようとする心理」が働いている可能性があります。

でも、冠水道路では周囲に合わせる必要はありません。

むしろ、

「みんなが行っているからこそ、自分は行かない」

くらいの判断が必要です。


4.「早く家に帰りたい」という焦り

台風やゲリラ豪雨のときは、普段とは違う精神状態になっています。

雨は激しい。

視界は悪い。

道路は渋滞している。

スマートフォンには大雨や洪水に関する情報が入ってくる。

そんな状況になると、

「早く家に帰りたい」

という気持ちが強くなります。

そして、

「この道を通れば早い」

「迂回すると時間がかかる」

「雨がもっと酷くなる前に帰りたい」

と考えてしまう。

つまり、本来なら「危険だからやめておこう」と判断するところを、焦りによって合理的な判断ができなくなることがあります。

安全な場所に車を止めて雨が弱まるのを待つ。

大きく迂回する。

こうした選択肢は頭では分かっていても、「早く帰りたい」という気持ちが強くなると選びにくくなります。


「水が浅そうだから大丈夫」は危険

冠水道路でもっとも怖いのが、

水深が分からないこと

です。

水が濁っていると、道路の凹凸や段差、側溝、マンホールなどが見えなくなります。

さらに、水圧などによってマンホールの蓋が外れている可能性もあります。

道路に穴が開いていたとしても、水面からは分かりません。

そのため、

「水たまりを通過するだけ」

と思って進入したところ、突然タイヤが落ち込む……という危険もあります。


アンダーパスは特に危険

大雨のときに特に注意したいのが、

アンダーパス

です。

鉄道や道路の下をくぐるような場所は、周囲より低くなっています。

そのため、大雨が降ると水が集まりやすく、短時間で冠水することがあります。

入り口では、

「ちょっと水が溜まっているだけ」

に見えても、奥へ進むにつれて水深が急激に深くなる可能性があります。

そして、車が動かなくなってから、

「やっぱり無理だった!」

と気づいても遅いのです。

JAFも、豪雨時には高架下やアンダーパスなど周囲より低い場所には進入せず、迂回するよう呼びかけています。


「タイヤが半分くらいなら大丈夫」は通用しない

冠水について調べていると、

「タイヤの半分くらいまでなら大丈夫」

という話を聞くことがあります。

しかし、これはかなり危険な考え方です。

車種や水深だけでなく、

  • 車の構造
  • エンジンやモーターの位置
  • 吸気口の位置
  • 走行速度
  • 水の流れ
  • 道路の形状

などによって状況が大きく変わるからです。

国土交通省によれば、水深が車両の床面を超えると、車内への浸水によって電気装置などに不具合が発生するおそれがあります。

また、床面以下の水深でも、速度が大きいと車が巻き上げた水や波によって吸気口から水が入り、エンジンが停止する可能性があります。

つまり、

「水深○cmなら絶対に大丈夫」

という単純な基準では判断できないのです。


冠水した道路を走ると、車はどうなる?

では、実際に冠水道路へ入ると、車にはどのようなことが起こるのでしょうか?

エンジンが止まる

ガソリン車やハイブリッド車では、吸気口から水を吸い込むことでエンジンが停止する可能性があります。

いわゆるウォーターハンマーによって、エンジン内部が大きく損傷するケースもあります。

また、水によって排気系が影響を受けることもあります。

一度エンジンが停止すると、

「もう一度エンジンをかければいい」

と考えたくなりますが、浸水した車両をむやみに再始動するのは危険です。

国土交通省も、浸水・冠水した車両は外観上問題がなくても電気系統のショートや車両火災などのおそれがあるため、自分でエンジンをかけず、販売店や整備工場に相談するよう案内しています。


EVやハイブリッド車なら大丈夫?

「EVはエンジンがないから冠水しても大丈夫なのでは?」

と思う人もいるかもしれません。

しかし、

これは危険な考え方です。

JAFが行った2024年の冠水路テストでは、EV、ハイブリッド車、ガソリン車について水深30cm・60cmなどの条件で検証しています。

走り切れたケースでも、ボンネット内部や車内への浸水、警告灯の点灯などが確認されています。

つまり、

「EVだから水に強い」

とは言えません。

特にEVやハイブリッド車は高電圧のバッテリーを搭載しているため、浸水した車両を自分で触ったり、安易に再始動したりするのは避ける必要があります。


車が浮いてしまうこともある

さらに怖いのが、

車そのものが浮く可能性

です。

水深が深くなってタイヤが完全に水没すると、車体が浮いてしまい、ハンドルを切っても思うように動かせなくなるおそれがあります。

しかも、水に流れがある場合はさらに危険です。

「車だから重いし、そう簡単には流されないだろう」

と思うかもしれません。

しかし、実際には車が水流によって動かされる危険があります。

国土交通省も、水流がある場合には車両が流されるおそれがあると注意喚起しています。


さらに怖いのが「ドアが開かなくなる」こと

車が冠水してしまった場合、最も恐ろしいのは車が壊れることだけではありません。

人間が車から脱出できなくなること

です。

水位が上がって車外との水圧差が大きくなると、ドアを内側から開けることが難しくなります。

国土交通省によると、水深がドアの下端にかかるとドアを開けにくくなり、ドアの高さの半分を超えると、内側からほぼ開けられなくなるおそれがあります。

ここまでくると、

「車が動かないからJAFを呼ぼう」

という話ではありません。

命に関わる状況です。


もし冠水した道路に入ってしまったら?

では、もし判断を誤って冠水した道路に入ってしまった場合はどうすればいいのでしょうか。

まず大切なのは、

「無理に進み続けない」

ことです。

水深が増えてきた、車が止まりそう、車内に浸水してきたなど、危険を感じた場合には安全確保を最優先にします。

すでに車が浸水している場合、JAFはエンジンを停止して避難するよう案内しています。

また、車が浸水してしまった後は、

「とりあえずエンジンをかけてみよう」

とは考えないこと。

浸水車両は、外から見ただけでは内部の損傷が分からないことがあります。


冠水で車が故障したら、自動車保険は使える?

ここで気になるのが、

「冠水して車が壊れたら保険は使えるの?」

という問題です。

結論から言うと、保険の種類によって大きく違います。

自賠責保険では車の修理代は補償されない

自賠責保険は、交通事故によって他人を死傷させた場合の「人身損害」を補償するための強制保険です。

そのため、

自分の車が冠水して壊れた場合の修理代や買い替え費用は、自賠責保険では補償されません。

ここは覚えておきたいポイントです。


任意保険の「車両保険」はどうなる?

一方、任意の自動車保険で車両保険を付けている場合は、台風や洪水などによる車両の損害が補償対象になるのが一般的です。

日本損害保険協会も、車両保険では台風・洪水・高潮による損害が補償されるタイプがあると説明しています。もっとも、契約タイプや保険会社によって補償内容は異なるため、契約内容の確認が必要です。

つまり、

「冠水した=必ず保険金が出る」

ではなく、

「加入している車両保険の補償内容を確認する」

ことが重要です。


車両保険を使うと翌年の保険料はどうなる?

ここも気になるところです。

台風や洪水などによる損害で車両保険を使った場合、一般的には、

「1等級ダウン事故」

として扱われます。

翌年の等級が1つ下がり、さらに1年間は「事故有」の割引率が適用されます。

そのため、

「修理代がそれほど高くないから、保険を使わないほうがいいのでは?」

というケースもあります。

修理費用だけを見るのではなく、

保険を使った場合に今後の保険料がどれくらい変わるのか

まで考えて判断することが大切です。


「わざと冠水道路に入ったら保険は出ない?」

ここは少し注意が必要です。

冠水した道路に進入したからといって、直ちに「故意に車を壊した」と判断されるわけではありません。

一方で、保険には支払対象外となるケースがあります。

そのため、

「冠水道路に入ったけど車両保険があるから絶対大丈夫」

と考えるのも危険です。

実際の保険金支払いは、事故の状況や契約内容、約款などによって判断されます。

もし実際に冠水被害に遭った場合は、車を無理に動かしたり修理を始めたりする前に、保険会社や代理店へ確認するのが安心です。


そもそも冠水した道路は走らないのが正解

ここまでいろいろ説明してきましたが、結局のところ答えはシンプルです。

冠水した道路には入らない。

これが一番です。

「このくらいなら大丈夫」

「前の車が行ったから大丈夫」

「SUVだから大丈夫」

「EVだから大丈夫」

「すぐそこだから大丈夫」

こうした「大丈夫だろう」という判断が、思わぬトラブルにつながる可能性があります。

実際の冠水道路では、水深だけでなく、

  • 水の流れ
  • 道路の陥没
  • マンホール
  • 側溝
  • 段差
  • 見えない障害物
  • 車が巻き上げる水
  • 車体が浮く危険

など、外からは分からない危険が隠れています。

JAFも、実際の冠水路では水深や水中の状態が分からないため、冠水路に安易に進入せず、迂回することを勧めています。


「車だから大丈夫」という考えを捨てよう

車に乗っていると、どうしても車を「守ってくれる箱」のように考えてしまいます。

雨が降っても濡れない。

風が吹いても大丈夫。

多少の水たまりなら走れる。

確かに、車は便利で頼りになる乗り物です。

しかし、

車は水の中を走るための乗り物ではありません。

ましてや、濁った水の中に何があるのか分からない状況では、車の性能だけを頼りにするのは危険です。

車は壊れても修理できます。

修理できなければ買い替えることもできます。

でも、

命は買い替えることができません。

だからこそ、冠水した道路を見たら、

「通れるかな?」

ではなく、

「どうやって避けよう?」

と考えることが大切なのではないでしょうか。


「なぜ、あの人は入ってしまったのか?」は他人事ではない

ニュース映像を見ていると、

「なんでこんなところに入るんだろう?」

と思うことがあります。

私もそう思います。

でも、今回調べてみて感じるのは、

「これは他人事ではないのかもしれない」

ということです。

「前の車が行った」

「これくらいなら大丈夫」

「家まであと少し」

「後ろに車がいる」

「早く帰りたい」

そんな小さな判断が積み重なって、

「まあ、行けるだろう」

という決断につながる。

人間の心理って、なかなか怖いものですよね。

そして何より怖いのは、冠水道路に入る瞬間には、

「自分は危険なことをしている」

という感覚が薄れている可能性があることです。

だからこそ、平常時からルールを決めておくことが大切なのかもしれません。

「道路が冠水していたら入らない」

これだけでもいいのです。


まとめ:冠水道路を見たら「引き返す」が正解

今回は、冠水した道路に車で進入してしまう人間の心理について考えてみました。

人が冠水道路に入ってしまう背景には、

  • 「これくらいなら大丈夫」という正常性バイアス
  • 「前の車が行けたから大丈夫」という同調行動
  • 後続車などを気にしてしまう心理
  • 「早く家に帰りたい」という焦り
  • 水深を正確に判断できない錯覚
  • 車の性能を過信してしまう気持ち

など、さまざまな要因が考えられます。

しかし、冠水道路では水深だけでなく、道路の状態や水流など、目では確認できない危険が潜んでいます。

そして一度車が動かなくなれば、単なる「車の故障」では済まなくなる可能性があります。

だからこそ、

冠水した道路を見たら、進まない。

危険を感じたら、引き返す。

可能なら安全な場所で待つ。

この判断を徹底することが大切です。

ニュースを見て、

「なんであんなところを走るんだろう?」

と思ったとしても、その答えは意外と単純ではないのかもしれません。

人間は誰でも、

「自分だけは大丈夫」

と思ってしまうことがあります。

だからこそ、冠水道路を目の前にしたときだけは、その気持ちに負けないこと。

「これくらいなら行ける」ではなく、「これくらいでも行かない」。

それが、自分の命と大切な車を守る一番の方法なのではないでしょうか。

ちなみに筆者自身も、過去に冠水した道路へ入ってしまった経験があります。

今振り返ると、

「あのとき、よく入ったな……」

と思います。

だからこそ、今回の記事を書きながら改めて感じました。

人間の心理って、本当に怖いものです。

「自分は絶対に大丈夫」と思わず、

「自分も同じ状況なら、判断を誤るかもしれない」

と考えておく。

それだけでも、大雨の日の行動は少し変わるのではないでしょうか。

今年も台風やゲリラ豪雨の季節がやってきます。

もし冠水した道路に遭遇したら、無理に進まず、どうか安全な場所へ。

車よりも大切なのは、自分の命です。

それではまた別の記事でお会いしましょう


🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」

10月3日

【登山の日】

「と(10)ざん(3)」と読める語呂合わせから、1992(平成4)年に日本アルパイン・ガイド協会(現・日本山岳ガイド協会)などの呼びかけによって制定された記念日です。

由来と目的

  • 語呂合わせ:「と(10)ざん(3)」の語呂合わせが由来となっています。
  • 目的:山に登ることで雄大な自然に触れ、自然の素晴らしさを知り、その恩恵に感謝するとともに、安全な登山の普及や発展を目指す日とされています。
  • 登山週間:紅葉の美しいシーズンであることにちなみ、10月3日から11日までの9日間は「登山週間」として設定されています。

「山の日」との違い

国民の祝日である「山の日(8月11日)」とは異なり、登山の日はいわゆる民間団体が制定した記念日(日本記念日協会などでも登録)です。10月は秋晴れが多く、紅葉が見頃を迎える行楽シーズンであることから、全国各地で安全講習会や登山イベントなどが開催されます。