車のタッチパネル操作は失敗だった?なぜボタンからタッチ式になり、また戻り始めたのか

最近、新しく発表される車を見ていると、昔ながらの「ボタン」や「ダイヤル」が減り、大きなタッチパネルにさまざまな機能が集約されていることに気付きませんか?

エアコン、オーディオ、ナビ、車両設定など、以前なら専用のスイッチやダイヤルが用意されていた機能まで、画面の中にまとめられている車も珍しくありません。

スマートフォンが普及した今、「画面をタッチして操作する」という考え方自体は、決して珍しいものではありません。

むしろ、

「ボタンをたくさん並べるより、画面にまとめたほうがスッキリしている」

「表示をソフトウェアで変更できるから便利」

「未来の車っぽくてカッコいい!」

そんな理由から、タッチパネル化は一気に進んでいきました。

ところが現在、その流れに少し変化が起きています。

一度は姿を消しかけた物理ボタンやダイヤルが、再び車に戻り始めているのです。

では、なぜ車はタッチパネル化したのでしょうか?

そして、なぜ今になって物理ボタンが見直されているのでしょうか?

さらにその先には、AIによる音声操作という新しい可能性もあります。

今回は、車の「ボタン」「タッチパネル」「AI」の関係について考えてみます。


そもそも、なぜ車の操作ボタンはタッチ式になったの?

まず気になるのが、

「なんで今までのボタンやダイヤルをわざわざタッチパネルにしたの?」

という疑問です。

理由は一つではありません。

大きく分けると、

  • デザイン性
  • 機能を集約できる
  • ソフトウェアで変更・更新できる
  • 部品点数や設計の自由度
  • 電動化・デジタル化との相性

など、いくつもの理由があります。

1.インテリアをスッキリさせられる

物理ボタンの場合、機能が増えるたびに新しいボタンやスイッチを追加する必要があります。

例えば、

「シートヒーター」

「エアコン」

「オーディオ」

「走行モード」

「安全装備」

「車両設定」

など、機能が増えれば増えるほど、インパネにはボタンが増えていきます。

そこで、それらを大きなディスプレイに集約すれば、見た目をスッキリさせることができます。

特に電気自動車では、

「従来の車とは違う未来の乗り物」

というイメージを演出するためにも、大型ディスプレイを中心としたインテリアは相性が良かったのでしょう。


2.一つの画面でたくさんの機能を扱える

物理ボタンには大きな弱点があります。

それは、

一度作ったら簡単には機能を変更できない

ということです。

例えば10個のボタンがあったとしても、基本的には10個の機能しか割り当てられません。

一方、タッチパネルなら画面を切り替えることで、同じ場所にさまざまな機能を表示できます。

ナビを表示しているときはナビ画面。

エアコンを操作するときはエアコン画面。

車両設定をするときは設定画面。

このようにソフトウェアによって役割を変えられます。

さらに、ソフトウェアアップデートによって機能を追加・変更できるのも、デジタル化の大きなメリットです。

つまりメーカー側からすると、

「一つの画面にたくさんの機能を持たせられる」

という非常に魅力的な仕組みだったわけです。


でも……車の操作をタッチパネルにして本当に大丈夫?

ここで問題になってきたのが「安全性」です。

スマートフォンなら、画面を見ながら操作しても基本的には問題ありません。

しかし車は違います。

運転中に画面を見るということは、その瞬間だけでも道路から視線が外れるということだからです。

特に問題なのが、エアコンや音量などの「運転中にも操作する可能性が高い機能」です。

昔ながらの物理ボタンなら、

「この辺に温度調整のダイヤルがある」

「この大きなボタンがハザード」

というように、手の感覚だけで操作できます。

いわゆるブラインド操作です。

ところがタッチパネルの場合、画面上のどこに目的のボタンが表示されているのか確認しなければなりません。

つまり、

手だけではなく、目も使って操作する必要がある

わけです。

これが運転中の大きな問題になります。


実験でも「物理ボタンの強さ」が明らかに

この問題を分かりやすく示したのが、スウェーデンの自動車雑誌「Vi Bilägare」による操作性テストです。

テストでは、2005年式のVolvo V70と、タッチパネルを多用する比較的新しい車を使い、エアコンやオーディオ、車両設定など4つの操作を行いました。

しかも車は時速110kmで走行しています。

結果はかなり興味深いものでした。

物理ボタンを多く備えた2005年式Volvo V70では、4つの操作を約10秒で完了。

その間に進んだ距離は約306mでした。

一方、最も時間がかかったMG Marvel Rでは、同じ操作を完了するまでに44.6秒。

その間に車は約1,372mも進んでいました。

なんと距離にすると4倍以上です。

もちろん、このテストだけで「タッチパネル=危険」と断定することはできません。

タッチパネルでも操作がシンプルな車は比較的短時間で操作できています。

つまり問題は、

タッチパネルそのものだけではなく、どのようなUI(操作画面)になっているか

ということも重要なのです。

それでも、

「運転中に頻繁に使う機能を、画面の奥深くまで探さなければならない」

という設計が、ドライバーの負担になることは想像できます。


それでもメーカーがタッチパネル化した理由

では、

「そんなこと最初から分からなかったの?」

と思ってしまいますよね。

ここは少し複雑です。

自動車メーカーがタッチパネル化を進めた背景には、もちろんデザインやデジタル化だけでなく、部品や設計、製造、ソフトウェアなどさまざまな事情があります。

物理スイッチを大量に配置する場合、それぞれに部品や配線、制御などが必要になります。

一方、ディスプレイに機能を集約すれば、ソフトウェア側で多くの機能を管理できます。

また、車に搭載される機能そのものが増えてきたことも大きいでしょう。

昔の車と比べると、現在の車は安全装備、運転支援、通信機能、ナビ、車両設定など、操作する項目が圧倒的に増えています。

その結果、

「増え続ける機能を、どうやって限られたスペースに収めるか?」

という問題が出てきました。

タッチパネルは、その問題を解決する方法として非常に魅力的だったのです。


ところが現在、「物理ボタン」が帰ってきている

ここからが今回の一番面白いところです。

一度は、

「ボタンなんて古い!」

と言わんばかりにタッチ化が進んだのに、今度は逆に物理ボタンが見直されています。

その代表例の一つがフォルクスワーゲンです。

同社はタッチ式の操作についてユーザーから多くの不満が寄せられたことを認め、物理ボタンを復活させる方向へ転換しました。

特にステアリングホイールのタッチ式操作や、操作しづらい空調コントロールなどについては、ユーザーから不満が出ていました。

つまりメーカー側も、

「デジタルだから便利とは限らない」

ということを学んだわけです。


Mercedes-Benzも「物理ボタン」を再評価

同じような動きはMercedes-Benzにも見られます。

Mercedes-Benzは2025年、デジタル中心のインテリアを維持しながらも、物理ボタンやローラー式コントロールを再び取り入れる方向を示しました。

その背景には、実際の利用データや顧客の声があります。

特に音量調整など使用頻度の高い操作では、

「物理的に押したり回したりできるほうが使いやすい」

という傾向が確認されているようです。

つまり、

「タッチパネルを全部やめる」

のではなく、

「画面が得意なことは画面に任せ、ボタンが得意なことはボタンに戻す」

という方向に変わってきているのです。

これは非常に合理的な考え方ではないでしょうか。


2026年からEuro NCAPも操作性を評価

そして、もう一つ大きな変化があります。

欧州の自動車安全評価機関であるEuro NCAPは、2026年から新しい評価プロトコルを導入しています。

そこでは衝突安全性能だけでなく、ドライバーの注意力や車内の操作系、いわゆるHMI(Human Machine Interface)についても、より重視されるようになりました。

特に、

  • ホーン
  • ウインカー
  • ハザードランプ
  • ワイパー
  • ヘッドライト

など、運転中に重要となる基本操作について、物理的な操作部を備えていることが重視されています。

ただし、

「物理ボタンがなければ5つ星を取れない」

という単純なルールではありません。

重要なのは、ドライバーがこれらの機能を分かりやすく、迷わず、安全に操作できることです。

これは非常に大きな方向転換だと思います。

車の安全性というと、

「衝突したときにどれだけ乗員を守れるか」

というイメージが強いですよね。

しかし今後は、

「そもそも運転中に操作しやすい車なのか?」

という部分も、より重要になっていくわけです。


「タッチパネル=悪」ではない

ここで誤解してはいけないのが、

「タッチパネルは全部ダメ」

という話ではありません。

タッチパネルにもメリットはたくさんあります。

例えば、

  • ナビの操作
  • 地図の拡大・縮小
  • 音楽や動画などのコンテンツ選択
  • 車両設定
  • ソフトウェアアップデート
  • 各種情報の表示

などは、タッチパネルとの相性が非常に良いでしょう。

むしろ、こうした機能まで全部物理ボタンにしてしまったら、今度はボタンだらけになってしまいます。

大切なのは、

「何でもタッチパネルにする」のではなく、「タッチパネルが得意な操作だけを任せる」

ことなのだと思います。


これからの車は「ボタン+タッチパネル+AI」になる?

ここで、もう一つ気になるのがAIです。

タッチパネルの次に車の操作を大きく変える可能性があるのが、AIによる音声操作です。

例えば、

「ちょっと暑いな」

と話しかけるだけで、

「設定温度を1度下げます」

とAIが判断してエアコンを調整してくれる。

「この近くで家族で入りやすいレストランを探して」

と話しかければ、条件に合った場所を探してナビに設定してくれる。

そんな操作が当たり前になる可能性があります。


AIなら「画面を見る」という問題を減らせる

これは車との相性がかなり良い技術です。

タッチパネルの最大の問題の一つは、

「画面を見なければ操作しにくい」

ということでした。

だったら、

「画面を見なくても操作できるようにすればいい」

という発想になります。

もちろん、音声認識にも限界はあります。

騒音の大きい車内では聞き取りにくいことがありますし、AIが意図を誤解する可能性もあります。

また、運転中にAIとの長い会話をすることが安全とは限りません。

そのため、

「AIに全部任せればOK」

という話でもありません。

重要なのは、

人間が操作するべきものと、AIに任せるものを上手に分けること

ではないでしょうか。


物理ボタンとAIは意外と相性がいい?

例えば、こんな役割分担が考えられます。

物理ボタン・ダイヤル

  • ハザード
  • ウインカー
  • ワイパー
  • 音量
  • エアコン温度
  • よく使う安全機能

など。

「一瞬で操作したい」

「手探りでも操作したい」

「確実に押せたことを感じたい」

という機能を担当します。

タッチパネル

  • ナビ
  • 地図
  • 車両設定
  • メディア選択
  • 詳細な設定

など。

「情報量が多い」

「表示を切り替えたい」

「停車中にじっくり設定する」

といった機能を担当します。

AI・音声操作

  • 目的地検索
  • 音楽検索
  • メッセージの読み上げ
  • 車両機能の呼び出し
  • 複雑な条件での検索
  • 車の使い方に関する質問

など。

「画面を操作するより話したほうが早い」

という機能を担当します。

こう考えると、

「ボタン vs タッチパネル」ではなく、「ボタン × タッチパネル × AI」

という組み合わせが、これからの車には一番合っているのかもしれません。


車は「未来っぽさ」より「使いやすさ」が重要

タッチパネルを大量に採用した車は、確かに未来的に見えます。

大きなディスプレイがダッシュボードにドンと配置されていると、

「おお、最新の車だ!」

と思いますよね。

しかし、車はスマートフォンとは違います。

スマートフォンなら手元に持って操作できます。

でも車は走っています。

しかも時速60km、80km、100km……場合によってはそれ以上の速度で移動しています。

時速100kmなら、1秒で約28m進みます。

つまり、

「ちょっと画面を見ているだけ」

と思っていても、その間に車はかなりの距離を進んでいるのです。

だからこそ車の操作系には、

「見なくても操作できる」

という考え方が重要なのではないでしょうか。


タッチパネル化は「失敗」だったのか?

では、今回のタイトルでもある、

「車のタッチパネル操作は失敗だったのか?」

について考えてみましょう。

個人的には、

「タッチパネル化そのものが失敗だったわけではない」

と思います。

失敗だったとすれば、

「何でもタッチパネルにすれば便利になる」

と考えてしまったことではないでしょうか。

タッチパネルには、タッチパネルの得意分野があります。

物理ボタンには、物理ボタンの得意分野があります。

そしてAIには、AIの得意分野があります。

一つの技術ですべてを解決しようとするのではなく、それぞれの長所を組み合わせる。

これが、これからの車には必要なのかもしれません。


これからの車はどう進化する?

これから先の車では、

「大画面だから未来的」

という考え方から、

「人間が安全に、簡単に操作できるから未来的」

という考え方へ変わっていくのではないでしょうか。

ボタンは必要なところに残る。

タッチパネルは情報表示や複雑な操作を担当する。

AIは音声によってドライバーをサポートする。

そして車そのものがドライバーの状態や状況を理解し、必要な情報を先回りして提示する。

そんな車が、これから増えていくのかもしれません。


まとめ

今回は、車のタッチパネル化について考えてみました。

スマートフォンの普及や車のデジタル化によって、一気に進んだタッチパネル化。

見た目がスッキリする。

たくさんの機能を一つの画面に集約できる。

ソフトウェアで機能を変更・更新できる。

こうしたメリットがある一方で、運転中に操作する場合には、

「画面を見なければ操作しにくい」

という大きな問題があります。

そのため現在では、フォルクスワーゲンやMercedes-Benzなど、一度タッチ中心の操作系を採用したメーカーも、物理ボタンやダイヤルを再評価する動きを見せています。

さらにEuro NCAPも、2026年から車内操作の分かりやすさや重要機能へのアクセス性を安全評価の中で重視するようになりました。

そして、その先にあるのがAIです。

物理ボタンだけに戻るのではなく、

「物理ボタン × タッチパネル × AI」

という、それぞれの長所を組み合わせた操作系が、これからのスタンダードになっていくのかもしれません。

車は「カッコよく見えること」も大切ですが、それ以上に、

「安全に、迷わず、直感的に操作できること」

が大切です。

一度は「未来の車」として歓迎されたタッチパネル化。

そして今、物理ボタンが再び見直されている。

この流れを見ると、技術の進化というのは、必ずしも「新しいものに置き換えること」ではないのかもしれません。

古い技術の良さを再発見し、新しい技術と組み合わせる。

そう考えると、これからの車がどんな操作系になっていくのか、ますます楽しみになってきますね。

それではまた別の記事でお会いしましょう


🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」

10月4日

【古書の日】

「古書の日」とは、全国古書籍商組合連合会(全古書連)が2003年(平成15年)に制定しました。

由来と目的

  • 日付の由来: 「古」の字を「十」と「口」に分解し、2つを重ねると「田」の字になり、それが4冊の本に見えること、また「10(十○)」を縦にして「古」、「4(し)」を「しょ(書)」と見立てて10月4日としたことに由来しています。
  • 制定の目的: 古書に親しんでもらい、書物文化の楽しさや重要性を再認識してもらうことを目的としています。

古書月間と関連イベント

10月の一ヶ月間は「古書月間」とされており、全国各地の古書店組合や関連団体によってさまざまな取り組みが行われています。

  • 古本まつり: 秋は全国各地で大規模な青空古本市や古本まつりが開催されるシーズンです。東京の神田神保町で開催される「神田古本まつり」などが特に有名です。
  • 古本感謝祭: 読まれなくなった本や役目を終えた本に感謝し、お祓いなどを行うイベントが企画されることもあります。