「オイル交換をお願いしたいんですが……」
そうディーラーに伝えたところ、
「申し訳ありません。現在、エンジンオイルの供給が不安定なため、すぐには対応できません」
まさか、こんなことを言われる日が来るとは思いませんでした。
車を所有している人なら、エンジンオイルは「なくなったら困るけど、普通に買えるもの」という認識ではないでしょうか。
ところが2026年、そんな当たり前が少しずつ崩れています。
2026年春以降、中東情勢の緊迫化を背景に、エンジンオイルをはじめとする石油関連製品の供給に混乱が発生。自動車整備の現場では、オイル交換の予約制限や入荷待ちなどの影響が報告されています。
一方、この時期には「ナフサ不足」「ナフサショック」というニュースも多く報じられました。
そこで気になったのが、
「エンジンオイル不足もナフサ不足が原因なのでは?」
という疑問です。
調べてみると、話はそれほど単純ではありませんでした。
ナフサとエンジンオイルは、同じ石油関連製品ではあるものの、主な用途も製造工程も異なります。
今回は、実際にオイル交換を断られた経験をきっかけに、
なぜエンジンオイルが不足しているのか?
ナフサショックとは何が違うのか?
そして、この状況はいつまで続くのか?
について調べてみました。
エンジンオイル不足は本当に起きている?
結論から言えば、エンジンオイルの供給が厳しくなっているのは事実です。
2026年春には、エンジンオイルの注文が急増したことで、石油元売りや卸売業者の供給能力を上回るケースが発生しました。
さらに、中東情勢の悪化によってベースオイルの調達環境も厳しくなり、供給不足に拍車をかけました。
自動車整備業界を対象にした調査では、オイルの「物そのもの」が完全に消えてしまったというより、
需要の急増+供給制約+在庫の偏り
が重なったことが大きな要因として指摘されています。
つまり、
「世界からエンジンオイルが完全に消えた」
という話ではありません。
しかし、
「必要な種類のオイルが、必要なタイミングで入ってこない」
という問題が実際に起きているのです。
2026年5月の調査では、注文量が前年の約4~5倍に膨らんだとの業界関係者の情報もあり、急激な需要増加が供給網に大きな負荷をかけました。
なぜエンジンオイルが不足しているの?
今回のエンジンオイル不足は、一つの原因だけで説明することはできません。
大きく分けると、
- 中東情勢によるベースオイルの供給不安
- 急激な需要増加による在庫の先食い
- 添加剤や容器など周辺資材の供給問題
- 製油所の定期修理などによる国内供給への影響
などが重なっています。
① 中東情勢によるベースオイルの供給不安
エンジンオイルを作るには、まず「ベースオイル(基油)」が必要です。
ベースオイルとは簡単に言えば、エンジンオイルの「土台」となる油です。
そこへ、
- 清浄剤
- 分散剤
- 酸化防止剤
- 摩耗防止剤
- 粘度指数向上剤
などの添加剤を加え、要求される性能を持ったエンジンオイルが作られます。
今回特に問題になったのが、高性能なベースオイルの供給不安です。
近年の低燃費車では、0W-20や0W-16などの低粘度オイルが指定されるケースも増えています。
こうした高性能オイルでは、品質の高いベースオイルが重要になります。
そして、その一部を中東地域からの供給に依存しているため、中東情勢の悪化が日本のエンジンオイル市場にも影響を及ぼしました。
特にGroup III系のベースオイルについては、中東の供給設備への影響が世界的な供給タイト化につながったとの指摘があります。
② 「オイルがない」だけではなかった? 急増した注文
今回の問題をさらに複雑にしたのが、需要の急増です。
「オイルがなくなるかもしれない」
という情報が広がれば、当然、
「早めに買っておこう」
「いつもより多めに確保しておこう」
という動きが起こります。
これがいわゆる先食い需要です。
実際、業界の調査では、エンジンオイルそのものの生産量だけでなく、注文が急激に増加したことが需給ひっ迫を悪化させたとされています。
これはトイレットペーパー不足などでも見られた現象に少し似ています。
「なくなるかもしれない」
↓
「早めに確保しよう」
↓
「注文が殺到する」
↓
「本当に店頭から消える」
↓
「さらに不安になって買う」
という悪循環です。
その結果、本来なら数カ月先に使うはずだった在庫まで前倒しで消費され、サプライチェーン全体に負荷がかかります。
③ エンジンオイルは「油」だけあれば作れるわけではない
もう一つ見落としがちなのが、エンジンオイルはベースオイルだけで完成するわけではないという点です。
ベースオイルに添加剤を配合して、初めて製品として完成します。
つまり、
ベースオイルがあるのに添加剤が足りない
という状況でも、エンジンオイルを十分に生産できません。
実際、2026年には添加剤の入荷を理由に、一部の規格のオイルについて受注停止や製造遅延が発生したというメーカー情報もあります。
さらに、オイルを入れる缶や容器などの資材も必要です。
そのため、
「原料さえあれば大丈夫」
という単純な話ではありません。
④ 国内の製油所も無関係ではない
海外からの供給だけが問題なのかというと、そうでもありません。
国内の製油所では定期修理などによって生産量が一時的に減少することもあります。
2026年には国内製油所の定期修理が重なり、ベースオイルの供給にも影響しているとの見方が出ています。
つまり、
海外からの供給が細る
+
国内生産にも制約がある
+
需要が急増する
という複数の要因が重なったわけです。
これなら、ディーラーや整備工場が「オイルを確保できない」という状況になっても不思議ではありません。
では「ナフサショック」とエンジンオイル不足は関係ないの?
ここが今回の記事の一番重要なポイントです。
結論から言うと、
「ナフサ不足=エンジンオイル不足」と考えるのは正確ではありません。
ただし、
「完全に無関係」と言い切るのも少し違います。
なぜなら、両方とも今回の中東情勢の影響を受けているからです。
ここを整理すると分かりやすくなります。
ナフサとは何なのか?
ナフサは、原油を精製する際に得られる比較的軽い石油留分です。
石油化学製品の原料として非常に重要で、
- プラスチック
- 合成樹脂
- 塗料
- 接着剤
- シンナー
- 包装材
など、私たちの身の回りにあるさまざまな製品につながっています。
2026年には中東情勢の緊迫化によってナフサなど石油製品の供給不安が広がり、企業の調達にも影響が出ました。
帝国データバンクの調査では、ナフサなど石油製品をめぐって「調達不安定」「リードタイム長期化」などを感じる企業が多く、特に塗料・接着剤・シンナーなどの化学系加工資材で調達支障が目立っていました。
エンジンオイルはナフサから作られているの?
ここは少し誤解されやすいところです。
エンジンオイルの主原料となるのは、基本的にナフサではありません。
エンジンオイルは、
ベースオイル+添加剤
を組み合わせて製造されます。
そしてベースオイルには、原油由来の鉱物系ベースオイルだけでなく、Group IIIなどの高性能なベースオイル、さらにGTL由来のものなど、さまざまな種類があります。
そのため、
ナフサが不足したから、そのままエンジンオイルも作れなくなった
という関係ではありません。
むしろ今回のオイル不足では、
ベースオイルの供給問題
と
添加剤などの供給問題
そして
需要急増による在庫の先食い
が重要です。
ナフサショックとオイル不足を比較すると?
簡単に整理すると、こんな違いがあります。
| 項目 | ナフサ供給不安 | エンジンオイル供給不安 |
|---|---|---|
| 主な対象 | ナフサ・石油化学原料 | ベースオイル・添加剤など |
| 主な用途 | プラスチック・塗料・シンナーなど | エンジンオイル・ギアオイルなど |
| 主な影響 | 樹脂・化学製品など | 自動車整備・物流・運送など |
| 中東情勢との関係 | 大きい | 大きい |
| 直接的な原料関係 | エンジンオイルとは別 | ナフサが直接の主原料ではない |
| 今回の問題 | 石油化学品の供給不安 | 潤滑油サプライチェーンの供給不安 |
つまり、
「同じ原因から枝分かれした別の問題」
と考えると分かりやすいでしょう。
ナフサ不足とエンジンオイル不足は、兄弟のような関係ではあっても、同じ製品ではありません。
なぜディーラーでオイル交換を断られるの?
ここは車を所有している人にとって非常に気になるところですよね。
「オイルが少し不足しているだけなら、なぜ交換してくれないの?」
と思う人も多いでしょう。
しかし、ディーラーや整備工場からすると、オイルは大量に使う消耗品です。
例えば1台あたり数リットル使うとして、1日に何十台もの車を整備すれば、かなりの量が必要になります。
そこで供給が不安定になると、
「すべてのお客様に通常どおり交換していたら、点検・車検など本当に必要な整備に使う分までなくなってしまう」
という問題が発生します。
実際、2026年にはディーラーや整備工場で予約制限や交換待ちが発生した事例が報告されています。7月には、メンテナンスパック加入者でも予約から作業まで約2カ月半待ちとなったケースが紹介されています。
つまり、ディーラーが意地悪をしているわけではなく、
限られた在庫をどう配分するか
という問題なのです。
「飛び込みのオイル交換」が難しくなるケースも
以前なら、
「ちょっと時間があるからオイル交換してもらおう」
という感覚でディーラーやカー用品店へ行くこともできました。
しかし供給が不安定になると、予約なしの作業は後回しにされることがあります。
特に、
- 車検
- 法定点検
- メンテナンスパック
- 既に予約されている整備
などが優先されるケースがあります。
これは整備工場側が在庫を計画的に使う必要があるためです。
では、このオイル不足はいつまで続くの?
ここについては、少し注意が必要です。
当初は「年末まで厳しい」「2027年まで影響する」といった見方もありました。
しかし2026年夏以降、供給状況には少しずつ改善の兆しも出ています。
一方で、すべての種類が一斉に正常化したわけではありません。
メーカーや規格、地域、販売先によって状況にはかなり差があります。
例えば、2026年7月時点では、オイル全体としては正常化に向かっているとの見方がある一方、一部のディーゼル用オイルなどでは不足感が強いとされています。
また、6月の業界関係者への取材では、0W-20や5W-30などの主力オイル、特にディーゼル用オイルについて依然として厳しい状況が報告されていました。
つまり、
「もう完全に解決した」
とも、
「2027年まで全国的にオイルがなくなる」
とも言い切れません。
今後は、
品種・メーカー・地域によって供給状況が違う状態が続く可能性がある
と考えたほうが現実的でしょう。
そして「価格」の問題もある
仮に店頭にオイルが戻ってきたとしても、もう一つ問題があります。
それが、
価格上昇
です。
ベースオイルの価格上昇に加え、添加剤や容器などのコストも上昇しています。
実際、潤滑油メーカーからも2026年の価格改定が相次いで発表されています。
あるメーカーでは、2026年7月以降の価格改定について、ベースオイル価格が半年ほどで約50~90%上昇したことに加え、添加剤や容器類も値上がりしていると説明しています。
つまり、
「オイルが買えるようになった=以前と同じ価格に戻る」
とは限りません。
供給不足が落ち着いたあとも、価格面ではしばらく影響が残る可能性があります。
低粘度オイルを使う最近の車ほど注意したい
今回の問題で特に気になるのが、最近の車です。
燃費性能を高めるため、
0W-16
0W-20
5W-30
など、低粘度のエンジンオイルを指定する車が増えています。
これらは「サラサラしたオイルだから、どれを入れてもいい」というわけではありません。
車種によって必要な性能や規格が異なるため、
「店にあるオイルを適当に入れる」
というのは避けるべきです。
オイル不足だからといって、自己判断で粘度や規格を変更するのではなく、まずは車の取扱説明書やメーカー指定の規格を確認しましょう。
一部の車種では代替粘度が認められている場合もありますが、これは車種やエンジンによって違います。
オイル交換を断られたらどうする?
今回のように、
「ディーラーでオイル交換ができない」
と言われた場合、まず焦らないことです。
次のような選択肢があります。
① 別の日に予約を取る
供給状況は日々変化しています。
「いつなら交換できますか?」
と確認してみましょう。
② 他のディーラーに相談する
同じメーカーでも店舗によって在庫状況が違う場合があります。
③ カー用品店や整備工場に相談する
ただし、こちらも在庫があるとは限りません。
事前に電話などで、
「車種・年式・指定オイルの規格」
を伝えて確認するのがおすすめです。
④ 持ち込み交換を利用する
自分で指定オイルを購入し、持ち込み交換に対応している整備工場などに依頼する方法もあります。
ただし、
「ネットで安いオイルを買えば何でもいい」
というわけではありません。
車に適合する規格・粘度の製品を選ぶことが大切です。
「オイル交換できない=すぐエンジンが壊れる」ではない
ここも必要以上に不安にならないために覚えておきたいポイントです。
オイル交換の時期を少し過ぎたからといって、翌日に突然エンジンが壊れるというものではありません。
もちろん、長期間交換しなかったり、オイル量が不足した状態で走行したりすれば、エンジンに重大なダメージを与える可能性があります。
しかし、
交換時期を少し過ぎた
ことと、
エンジンオイルが完全になくなった
ことは全く違います。
重要なのは、
- オイル量を確認する
- 警告灯を確認する
- 異音や異常を放置しない
- 指定されたオイルを使用する
- 交換時期を大幅に超えない
ことです。
もし交換時期が来ているのに予約が取れないのであれば、早めに別の整備工場などへ相談しておくと安心です。
まとめ:今回のオイル不足は「ナフサ不足」だけでは説明できない
今回のエンジンオイル不足について調べてみると、
「ナフサが不足したからエンジンオイルも不足した」
という単純な話ではないことが分かりました。
ナフサは主に石油化学製品の原料として使われる一方、エンジンオイルはベースオイルと添加剤などから作られます。
そのため、両者を直接結びつけるのは正確ではありません。
しかし、だからといって完全に無関係というわけでもありません。
今回の中東情勢の悪化によって、
ナフサなどの石油化学原料
と
ベースオイルなどの潤滑油関連製品
の双方で供給不安が発生しました。
そこへ、
急激な需要増加
在庫の先食い
添加剤や容器など周辺資材の問題
国内製油所の定期修理などによる供給制約
が重なったことで、エンジンオイルの供給が厳しくなったと考えるのが自然です。
そして2026年9月現在、状況は春先のピーク時から改善しているものの、すべてのオイルが完全に正常化したわけではありません。
「普通にオイル交換できる」という、これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなった今回のオイル不足。
車を所有している私たちにとっても、決して他人事ではありません。
もし次回のオイル交換が近づいているなら、
「いつでも交換できるだろう」
と油断せず、少し早めにディーラーや整備工場へ確認しておくと安心です。
まさかオイル交換まで「予約してもすぐできない時代」が来るとは……。
石油製品の供給網が一日も早く安定し、安心して車を整備できる状況に戻ってほしいものですね。
それではまた別の記事でお会いしましょう
🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」
9月26日
【台風襲来の日】
「台風襲来の日」とは、統計上で台風が日本へ襲来する回数が多いことから定められた記念日です。
1950年代の同じ日(9月26日)に、日本の災害史上でも特に甚大な被害をもたらした3大台風が相次いで発生・上陸したことが主な由来となっています。
9月26日に発生・襲来した主な過去の台風
- 洞爺丸(とうやまる)台風(1954年):北海道南端付近で青函連絡船「洞爺丸」などが転覆・沈没し、1,400人以上の死者・行方不明者を出しました。
- 狩野川(かのがわ)台風(1958年):伊豆半島や関東地方を襲い、狩野川の大氾濫などによって多くの犠牲者や浸水被害が出ました。
- 伊勢湾(いせわん)台風(1959年):和歌山県に上陸後、東海地方を中心に高潮などによる甚大な被害をもたらし、明治以降の台風では最多となる5,000人以上の死者・行方不明者を出しました。
現在では、これら過去の災害を教訓とし、改めて台風や集中豪雨への警戒を呼びかけ、防災意識を高めるための日
として意識されています。