皆さんは、テレビやインターネットで弁護士事務所のCMを見たことがありますか?
「過払い金が戻ってくるかもしれません」
「借金問題でお悩みならご相談ください」
「交通事故の慰謝料についてご相談ください」
このようなCM、一度は見たことがあるのではないでしょうか。
私自身、最近になって弁護士事務所のCMをよく見かけるようになったと感じています。
しかし、ふと考えてみると不思議ではありませんか?
弁護士といえば、昔から「難関資格」「高収入」「法律の専門家」というイメージが強い職業です。
それなのに、なぜ最近では一般企業と同じようにテレビCMを大量に流しているのでしょうか?
私が若い頃には、弁護士事務所のCMなんてほとんど見た記憶がありません。
そこで今回は、
「なぜ昔は弁護士事務所のCMを見なかったのか?」
そして、
「なぜ現在は、これほどまでにCMが増えたのか?」
について調べてみました。
昔は弁護士事務所がCMを出せなかった?
実は、これには明確な理由があります。
現在のように弁護士がテレビやインターネットなどを使って積極的に広告することは、昔から自由に認められていたわけではありません。
日本弁護士連合会(日弁連)では、かつて弁護士の業務広告を原則として禁止していました。
その背景には、
「弁護士は公共的な仕事を担う専門職であり、一般企業のように依頼者を広告で奪い合うべきではない」
といった考え方がありました。
実際、1955年に制定された弁護士倫理では、弁護士の広告を原則として禁止していたとされています。
その後、1987年には一定の条件のもとで広告を認める方向へと規制が緩和されました。
そして大きな転換点となったのが2000年です。
日弁連は2000年3月に会則を改正し、弁護士が業務について広告できることを原則として認めました。この改正は同年10月1日に施行されています。
つまり、
「昔は弁護士事務所がCMをしなかった」のではなく、「そもそも広告そのものが厳しく制限されていた」
というわけです。
これは意外と知られていないポイントではないでしょうか。
では、広告が解禁されたら、なぜ一気にCMが増えたの?
広告が自由になったからといって、すべての弁護士事務所が突然テレビCMを始めたわけではありません。
そこには、もう一つ大きな出来事がありました。
それが過払い金返還請求です。
過払い金ブームが弁護士広告を一気に広げた
2000年代になると、消費者金融などから借金をしていた人の「払いすぎた利息」、いわゆる過払い金が大きな社会的関心を集めるようになります。
背景には、利息制限法と当時の貸金業法の仕組みの違い、いわゆる「グレーゾーン金利」がありました。
その後、最高裁判所が2006年1月に、みなし弁済の要件について厳格な判断を示したことで、過払い金返還請求が広がる大きなきっかけとなりました。
すると、
「もしかしたら、自分にも過払い金があるのでは?」
と考える人が増えていきます。
ここで弁護士事務所にとって重要だったのが広告との相性です。
過払い金請求は、対象となる人が全国に多数存在し、一定の条件を確認したうえで請求手続きを進めるという、比較的パターン化しやすい業務でした。
そのため、
CMを出す
↓
相談者が増える
↓
対象者から依頼を受ける
↓
手続きを進める
というビジネスモデルが成立しやすかったと考えられます。
「過払い金」という言葉を一気に世の中へ広めたのも、こうした法律事務所の広告だったと言えるでしょう。
弁護士の数が増えたこともCM増加の背景に
もう一つ見逃せないのが、弁護士人口の増加です。
2000年代には司法制度改革が進められ、法曹人口を増やす方針が打ち出されました。
政府の司法制度改革推進計画では、司法試験合格者数を増やし、将来的に年間3,000人程度とすることを目指す方針も示されました。
その結果、弁護士人口は大きく増加しています。
法務省の資料によると、2002年の弁護士人口は1万8,851人でしたが、2008年には2万5,062人、2011年には3万505人まで増加しています。
つまり、
弁護士が増える
↓
法律事務所も増える
↓
依頼者を獲得する競争が生まれる
↓
広告の重要性が高まる
という流れも生まれたわけです。
昔の弁護士業界と現在の弁護士業界では、「仕事を待っているだけではなく、自分たちの存在を知ってもらう」という考え方が広がったことも、CM増加の背景にあるのでしょう。
でも、弁護士事務所のCMって「過払い金」ばかりじゃない?
ここまで読んで、
「でも最近は過払い金以外のCMも見るけど?」
と思った人もいるでしょう。
その通りです。
弁護士事務所の広告には、過払い金以外にもさまざまな分野があります。
例えば、
- B型肝炎給付金
- アスベスト被害の賠償請求
- 交通事故の損害賠償
- 後遺障害
- 債務整理
- 労働問題
- 相続
- 離婚問題
- 刑事事件
などがあります。
では、なぜテレビCMでは特定の分野が目立つのでしょうか?
テレビCMと相性がいい法律問題には特徴がある
ここが今回の話の面白いところです。
テレビCMには当然ながら莫大な広告費がかかります。
そのため、テレビCMを出すのであれば、
「CMを見た人の中から、実際に相談してくれる人が一定数いる」
ことが重要になります。
例えば、全国に対象者がたくさんいる問題であれば、テレビCMとの相性が良くなります。
「昔、消費者金融から長期間お金を借りていた」
「一定の条件に該当するB型肝炎感染者である」
「仕事中にアスベストを扱っていた」
など、対象者をある程度絞り込めるテーマです。
しかも、CMを見た人自身が、
「自分も対象かもしれない」
と判断しやすいという特徴があります。
これは広告を出す側からすると非常に重要です。
では、離婚や相続のCMが少ないのはなぜ?
一方で、
「離婚で悩んでいます」
「親が亡くなって相続で揉めています」
「家族と遺産分割でトラブルになっています」
といった問題は、テレビCMだけで集客するのが難しい面があります。
なぜなら、同じ「離婚」でも、一人ひとり事情がまったく違うからです。
財産分与、親権、養育費、不貞行為、面会交流など、問題が複雑に絡み合うケースもあります。
相続も同じです。
相続財産の種類、相続人の人数、遺言書の有無、土地や不動産の評価などによって、必要な対応が変わります。
つまり、
「テレビCMを見た人を大量に集めて、同じような手続きを一気に進める」
という方式とは、少し相性が違うのです。
もちろん、離婚や相続を積極的に扱っている法律事務所もあります。
ただし、その集客方法はテレビCMだけではありません。
個別の法律相談は「検索広告」と相性がいい
現在では、インターネットを使った集客も非常に重要になっています。
例えば離婚問題で悩んでいる人なら、
「離婚 弁護士」
「離婚 慰謝料 弁護士」
「親権 弁護士」
などと検索するかもしれません。
相続なら、
「相続 弁護士」
「遺産分割 弁護士」
「遺言書 作成 弁護士」
と検索する人もいるでしょう。
こうした検索広告なら、
「今まさに弁護士を探している人」
に広告を見てもらえます。
テレビCMのように、法律問題とは無関係の人にまで大量に広告を見せる必要がありません。
そのため、個別性の高い法律問題では、テレビよりもインターネット広告のほうが集客方法として使いやすい場合があります。
それでも、CMを流している法律事務所は限られている
ここまで来ると、もう一つ疑問が出てきます。
「弁護士事務所って全国にたくさんあるのに、テレビCMを流しているところは一部だけじゃない?」
これも、その通りです。
テレビCMは、単純に「広告を出したい」と思えば誰でも出せるような安い広告ではありません。
広告費だけでなく、CM制作費、問い合わせ対応、相談者の受付、案件処理など、広告を出した後の体制も必要になります。
つまり、
CMを出すだけでは意味がない
のです。
CMを見た人から大量の問い合わせが来たときに、それを受け止められる組織体制が必要になります。
そのため、全国規模で広告を展開する法律事務所では、複数の拠点を持っていたり、多数の弁護士やスタッフを抱えていたりするケースがあります。
一方、地域密着型の法律事務所であれば、地元の企業や個人からの紹介、既存顧客からの口コミ、地域での信用などによって仕事を獲得している場合もあります。
この場合、全国向けにテレビCMを流す必要性はそれほど高くありません。
「テレビCMを出す弁護士」と「出さない弁護士」の違い
ここまでを整理すると、ざっくり次のように考えることができます。
| テレビCMを活用しやすい事務所 | テレビCMを必ずしも必要としない事務所 |
|---|---|
| 全国から相談者を集めたい | 地域の顧客を中心にしている |
| 個人向け業務が中心 | 企業法務・顧問業務などが中心 |
| 大量の問い合わせに対応できる | 個別案件を少数精鋭で扱う |
| 広告投資を回収できる仕組みがある | 紹介や既存顧客から依頼が来る |
| 複数拠点・スタッフなどの体制がある | 地域密着型の運営 |
もちろん、これはあくまで傾向です。
「CMを出している=大手」「CMを出していない=小規模」という単純な話でもありません。
法律事務所によって得意分野や経営方針はそれぞれ違います。
弁護士事務所のCMが増えたのは「弁護士が身近になった」から?
個人的には、ここも面白いポイントだと思います。
昔の弁護士といえば、
「裁判になったときに頼る人」
というイメージが強かったのではないでしょうか。
しかし現在では、
「借金問題」
「交通事故」
「相続」
「離婚」
「労働問題」
「ネット上のトラブル」
など、裁判になる前の段階から法律相談を利用するケースがあります。
司法制度改革でも、国民がより利用しやすい司法制度を構築することが重要なテーマとされていました。
そう考えると、弁護士事務所がテレビCMを流すようになったことは、単純に「弁護士がお金をかけて宣伝するようになった」というだけではありません。
弁護士という存在を、一般の人に知ってもらう必要性が高まった
という社会の変化も関係しているのかもしれません。
それでも、なぜか「弁護士のCM」には違和感がある?
とはいえ、昭和・平成世代の人間からすると、
「弁護士事務所がテレビCMをやっている」
という光景には、いまだに少し違和感があります。
昔なら、
「弁護士を探す」
となれば、知り合いに聞いたり、紹介してもらったり、電話帳で探したりするイメージだったのではないでしょうか。
それが現在では、
テレビを見ていると、
「過払い金!」
「借金問題!」
「交通事故!」
と法律事務所のCMが流れてきます。
スマートフォンを開けば、検索結果にも法律事務所の広告が表示されます。
時代はずいぶん変わったものです。
ただ、考えてみれば弁護士だけが特殊なのではありません。
病院、保険、不動産、税理士、司法書士など、かつては「広告する」というイメージが薄かった専門職でも、現在ではインターネットやSNSなどを使って情報発信するのが当たり前になっています。
専門家も「待っていれば依頼が来る」という時代から、
「自分たちが何をしているのか、必要としている人に知ってもらう」
という時代に変わってきたのでしょう。
まとめ
今回は、なぜ弁護士事務所のCMを昔より頻繁に見かけるようになったのかを調べてみました。
大きなポイントをまとめると、
- 昔は弁護士の広告が厳しく制限されていた
- 2000年に日弁連の広告規制が大きく緩和された
- 2000年代には過払い金返還請求が広がった
- 司法制度改革によって弁護士人口が増加した
- 弁護士・法律事務所間の競争が強まった
- 全国に対象者がいる法律問題はテレビCMと相性がいい
- 個別性の高い問題ではインターネット検索広告などが活用されやすい
- テレビCMを出すには広告費だけでなく、問い合わせを処理する組織体制も必要
ということになります。
つまり、現在の弁護士事務所のCMは、
「広告が解禁された」
という一つの理由だけで増えたわけではありません。
広告規制の変化、過払い金問題、弁護士人口の増加、インターネットの普及、そして法律サービスそのものの利用方法の変化。
こうしたものが重なった結果として、私たちがテレビで弁護士事務所のCMを見る機会が増えたと考えることができます。
私のような昭和生まれの人間からすると、「弁護士がテレビCMで自分たちを宣伝する」という光景は、今でも少し不思議に感じます。
でも、昔は「弁護士に相談する」という行為そのものに、今以上の敷居の高さを感じていた人も多かったのかもしれません。
そう考えると、弁護士事務所のCMが増えたことは、単なる広告競争というだけではなく、
「法律の専門家を、もっと身近な存在にする」
という社会の変化の一面なのかもしれません。
皆さんは、弁護士事務所のCMを見て、どんな印象を持ちますか?
「昔はこんなCMなかったよなぁ」と感じる人もいれば、「今では普通じゃない?」と感じる人もいるでしょう。
こういうところにも、時代の変化って表れるものなのかもしれませんね。
それではまた別の記事でお会いしましょう
🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」
10月13日
【引っ越しの日】
1989年(平成元年)に全国引越専門協同組合連合会(ハトのマークの引越センター)の関東ブロック会が、創立15周年を記念して制定した記念日です。
この日付は、1868年(明治元年)10月13日に明治天皇が京都御所から江戸城(現在の皇居)に入城されたことに由来しています。この数千人を伴う大規模な大移動が「近代の引越しの始まり」と見なされたことから、10月13日が記念日として選ばれました。
ちなみに、暦(カレンダー)の上でも10月13日は引越しに縁起が良い日になりやすい特徴があります。
- 2025年10月13日:六曜の「大安」にあたる吉日でした。
- 2026年10月13日:十二直の「満(みつ)」にあたり、新居に暮らしを満たすという意味で引越しに適した日取りとされています。