皆さんは、エスカレーターを利用するとき、歩きますか?
「急いでいるから右側を歩く」という人もいれば、「エスカレーターでは基本的に止まっている」という人もいるでしょう。
日本では長年、「片側に立ち止まり、もう片側を急いでいる人のために空ける」という乗り方が一般的でした。
ところが最近では、「エスカレーターでは歩かず、左右どちらにも立ち止まって乗りましょう」という案内を目にする機会が増えています。
実は、埼玉県や名古屋市では、エスカレーターの利用者に対して「立ち止まって利用する」ことを求める条例まで制定されています。
では、エスカレーターを歩くのと、立ち止まって乗るのでは、実際にどれくらい時間が変わるのでしょうか?
そして、みんなが立ち止まって乗ったほうが、本当に効率が良いのでしょうか?
今回は、そんな身近だけど意外と知らない「エスカレーターの歩行問題」について調べてみました。
エスカレーターで歩くことを禁止する条例ってあるの?
まず気になるのが、「エスカレーターは歩いてはいけない」というルールが本当に存在するのか、ということです。
結論から言うと、実際に条例として定めている自治体があります。
代表的なのが、
- 埼玉県
- 名古屋市
です。
埼玉県では2021年から条例が施行
埼玉県では、2021年10月1日から「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行されています。
この条例では、エスカレーターの利用者について、
「立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない」
と定めています。
また、駅や商業施設などの管理者にも、利用者に対して立ち止まって利用するよう周知することが求められています。
ただし、ここで注意したいのが、罰則規定はないということです。
つまり、歩いたからといって罰金を払ったり、逮捕されたりするような法律ではありません。
安全な利用を促すための条例という位置づけです。
名古屋市でも2023年から条例が施行
名古屋市でも、2023年10月1日から「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行されています。
こちらも、
右側・左側を問わず、踏段上では立ち止まって利用する
ことを利用者の義務として定めています。
さらに、管理者には、その利用方法を周知することが義務づけられています。
名古屋市の条例にも罰則規定はありません。
つまり、
「エスカレーターで歩いたら罰金!」
という話ではなく、
「安全のため、エスカレーターは歩かずに立ち止まって利用しましょう」
というルールなのです。
なぜエスカレーターを歩いてはいけないの?
そもそも、なぜ今まで普通に行われていた「片側を空けて歩く」という習慣が問題になっているのでしょうか?
大きな理由の一つが、転倒や接触事故の防止です。
エスカレーターは、階段のように自分の足で一段ずつ上り下りする場所ではありません。
踏段そのものが動いているため、歩いている途中でバランスを崩したり、つまずいたりすると、後ろにいる人を巻き込む可能性があります。
特に危険なのが、歩行者が追い越すときです。
例えば、
「急いでいるから追い越そう」
と横を通った瞬間、持っていたバッグが隣の人に当たる。
その人がバランスを崩す。
さらに後ろの人も巻き込まれる。
このように、一人の歩行が複数人を巻き込む事故につながる可能性があります。
日本エレベーター協会も、エスカレーターでは歩いたり走ったりせず、手すりにつかまって利用するよう呼びかけています。
「片側を空ける」ことが危険になる人もいる
もう一つ重要なのが、エスカレーターを利用する人は、全員が同じ身体条件ではないということです。
例えば、
- 高齢者
- 子ども
- けがをしている人
- 障害のある人
- 杖を使っている人
- 片側の手すりしかつかめない人
など、さまざまな人がエスカレーターを利用します。
「左側に立つのが普通だから」と右側を空けてしまうと、右側の手すりにつかまらなければ安全に乗れない人が困ってしまう場合があります。
これは「急いでいる人のために片側を空ける」という習慣だけでは見えにくい問題です。
自分にとっては何でもないことでも、別の人にとっては安全に関わることがあります。
だからこそ、左右どちらか一方だけを「歩く人のためのスペース」にするのではなく、左右両側で立ち止まって利用することが推奨されているわけです。
では、歩いたらどれくらい早く着くの?
ここで本題です。
「歩くのが危険なのは分かった。でも、急いでいるときくらい歩いてもいいんじゃない?」
と思う人もいるでしょう。
実際、自分一人だけの移動時間を考えれば、歩いたほうが早く到着します。
当然ですよね。
エスカレーターそのものが人を運んでくれる速度に加えて、自分自身も歩いて進むことになるからです。
例えば、エスカレーターの長さが15~20m程度だったとします。
エスカレーターが分速30m程度で動いていると仮定すると、立ち止まっているだけでも、15mなら約30秒、20mなら約40秒で移動できます。
そこを自分で歩けば、当然それより短い時間で到着できます。
ただし、実際の短縮時間は、
- エスカレーターの長さ
- エスカレーターの速度
- 自分の歩く速度
- 前の人との距離
- 混雑状況
などによって大きく変わります。
つまり、
「歩けば必ず10秒短縮できる」
のように一律には言えません。
短いエスカレーターなら差は小さく、長いエスカレーターなら差が大きくなる可能性があります。
では、ここで疑問が出てきます。
「一人の到着時間が早くなるなら、全員が歩いたほうが効率いいんじゃないの?」
ところが、話はそんなに単純ではありません。
エスカレーターは「一人の速さ」と「全体の流れ」が違う
ここが今回の話で一番面白いところです。
エスカレーターの効率を考えるとき、
「自分が何秒早く着くか」
だけを見るのか、
「一定時間に何人を運べるか」
を見るのかで、結果が変わってきます。
例えば、エスカレーターの右側を歩行用として空けているとします。
右側を歩く人は早く進めます。
しかし、左側には立ち止まっている人が並びます。
もし利用者が多ければ、左側の列にはどんどん人がたまり、エスカレーターに乗るまでの待ち時間が長くなります。
一方、左右両側に立ち止まって乗れば、エスカレーターの幅を2列とも輸送に使えるため、一度に多くの人を運べます。
つまり、
「一人だけなら歩くほうが早い」
と
「全体として人をたくさん運ぶならどうか」
は、別の問題なのです。
ロンドンの地下鉄で実際に実験された
この問題について興味深い実験があります。
イギリス・ロンドンの地下鉄、ホルボーン駅で行われた実験です。
この駅には非常に長いエスカレーターがあり、混雑が問題になっていました。
そこで、エスカレーターの片側を歩行用として空けるのではなく、
左右両側に立ち止まって乗る
よう利用者に呼びかける実験が行われました。
その結果、エスカレーターの輸送能力は、実験時の比較で約30%増加しました。
別の資料では、通常時の約12,745人/時に対して、両側に立って利用した場合は約16,220人/時となったと報告されています。
つまり、
「歩く人のために片側を空けたほうが、全体として効率がいい」
とは必ずしも言えないのです。
特に、利用者が多くて混雑している場所では、2列とも立ち止まって乗ることで、全体の流れが改善する場合があります。
ただし「どこでも30%速くなる」という話ではない
ここは誤解しないようにしたいポイントです。
ホルボーン駅の実験結果は非常に興味深いものですが、
「日本中のすべてのエスカレーターで、立ち止まれば30%効率が上がる」
という意味ではありません。
エスカレーターの長さや速度、利用者数、歩く人の割合、駅の構造などによって結果は変わります。
実際、ロンドン地下鉄の資料でも、エスカレーターの長さや利用状況によって効果が異なることが示されています。
つまり、
「エスカレーターは歩くより止まったほうが絶対に速い」
という単純な話ではなく、
「混雑した場所では、全員が片側を空けるより、左右両側に立ち止まったほうが全体の輸送効率が高くなる場合がある」
ということです。
エスカレーターを歩くのは「車の運転」と似ている?
ここで、ちょっと面白い例えをしてみます。
車を運転していて、
「少しでも早く目的地に着きたい!」
と思ったことはありませんか?
前の車を追い越したり、少し速度を上げたりして、数分でも早く到着しようとすることがあります。
ところが、その先に赤信号があったり、渋滞していたりすると、せっかく稼いだ時間がなくなってしまうことがあります。
エスカレーターにも、これと似た部分があります。
エスカレーターを歩いて10秒、20秒早く到着しても、その先で、
- 改札に人が並んでいる
- 別のエスカレーターが混雑している
- 階段や通路が詰まっている
- 電車の到着を待っている
- 信号が赤になっている
となれば、そこで時間を使うことになります。
ただし、車とエスカレーターはもちろん同じではありません。
車は速度を上げれば危険性が増しますが、エスカレーターの場合は、歩行そのものが転倒や接触のリスクを増やす可能性があります。
そのため、
「少しでも早く進むこと」と「安全に移動すること」のバランス
を考える必要があります。
「急がば回れ」はエスカレーターにも当てはまる?
では、結局どうすればいいのでしょうか?
個人的には、ここで日本のことわざ、
「急がば回れ」
を思い出します。
もちろん、本当に急いでいるときは一秒でも早く移動したいものです。
しかし、エスカレーターで数秒、数十秒を短縮しようとして歩いた結果、転倒してしまったら、それこそ大きな時間を失ってしまいます。
また、エスカレーターは自分一人だけが使っているものではありません。
高齢者も、子どもも、身体に不自由がある人も、荷物を持った人も利用しています。
「自分は歩けるから問題ない」
ではなく、
「いろいろな人が安全に利用できる場所」
と考えることも大切なのではないでしょうか。
エスカレーターは「歩くための階段」ではない
今回調べてみて、個人的に一番印象に残ったのがこの部分です。
私たちはエスカレーターを見ると、ついつい「動く階段」と考えてしまいます。
だから、
「階段なんだから歩いてもいいでしょ」
と思ってしまう。
しかし、エスカレーターは階段とは違い、踏段そのものが動いています。
さらに、周囲には他の利用者がいて、手すりも動いています。
歩くことによって自分だけでなく、周囲の人にも影響を与える可能性があります。
だからこそ、
エスカレーターでは歩かず、手すりにつかまって立ち止まる。
これが安全利用の基本なのでしょう。
まとめ
今回は、エスカレーターを歩く場合と立ち止まって利用する場合について調べてみました。
ポイントをまとめると、
- 埼玉県では2021年10月から立ち止まって利用することを求める条例が施行されている
- 名古屋市でも2023年10月から同様の条例が施行されている
- いずれも罰則規定はない
- エスカレーター上を歩くと転倒や他人との接触事故につながる可能性がある
- 片側を空ける習慣は、片側の手すりしかつかめない人にとって危険になる場合がある
- 一人だけの移動時間なら、歩いたほうが早く到着する
- しかし、混雑時には左右両側に立ち止まって乗ったほうが、全体の輸送効率が高くなる場合がある
- ロンドンのホルボーン駅では、両側に立ち止まる実験で輸送能力が約30%増加した
- ただし、この結果がすべてのエスカレーターにそのまま当てはまるわけではない
「急いでいるから、少しでも早く!」
という気持ちは、もちろん分かります。
でも、エスカレーターで数秒を急ぐより、安全に目的地へ到着することのほうが大切です。
もし階段が併設されていて、本当に運動したいのであれば、エスカレーターを歩くより階段を使うという選択肢もあります。
そう考えると、
「エスカレーターでは立ち止まり、歩きたいなら階段へ」
というのが、一番シンプルなのかもしれません。
皆さんはどうでしょうか?
エスカレーターでは立ち止まる派ですか?
それとも、ついつい歩いてしまう派ですか?
普段何気なく利用しているエスカレーターですが、調べてみると「一人が早く移動すること」と「みんながスムーズに移動すること」は、必ずしも同じではないようです。
身近なものほど、調べてみると意外な発見がありますね。
それではまた別の記事でお会いしましょう
参考
- 埼玉県「エスカレーターの安全利用について」
- 名古屋市「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」
- 日本エレベーター協会「エスカレーターの安全な利用について」
- London Underground「Holborn Station Pilot」
🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」
10月22日
【アニメの日】
日本のアニメーションの魅力を世界に向けて発信し、産業の持続的な発展を目指すことを目的に、日本のアニメ100周年を迎えた2017年に一般社団法人日本動画協会によって制定されました。
この記念日の由来や背景には、以下のような歴史的なポイントがあります。
- 由来となった作品: 1958年10月22日に、日本初のカラー長編アニメーション映画『白蛇伝(はくじゃでん)』(東映動画/現:東映アニメーション制作)が公開されたことにちなんでいます。
- アニメ界への大きな影響: この『白蛇伝』は、当時高校3年生だった宮崎駿監督が鑑賞し、のちにアニメーションの道を志す大きなきっかけの一つになった作品としても知られています。
毎年10月22日の前後には、関連施設での無料上映会や、アニメ作品の特別企画などが行われ、日本が世界に誇るアニメ文化を振り返る日となっています。