日本人だけが虫の「声」を聞ける?脳と文化が生み出す不思議な感性

虫の声が「聞こえる」のは日本人だけ?

秋の夜、コオロギや鈴虫の鳴き声が響くと、「ああ、秋が来たな」と感じる方も多いのではないでしょうか。日本では昔から、このような虫の鳴き声を**「虫の声」**と呼び、風情あるものとして親しまれてきました。

ところが驚くことに、外国人の多くはこの虫の声を「雑音」としてしか認識しないと言われています。では、なぜ日本人だけが虫の声を「声」として感じ取るのでしょうか?その背景には、脳の働きや言語の特徴、そして文化的な感性の違いが関わっているのです。


脳科学的な説:「角田理論」とは?

この現象を説明する代表的な説が、東京医科歯科大学の角田忠信名誉教授が提唱した**「角田理論」**です。

その要点は次の通りです。

  • 人間の脳は「言語を司る左脳」と「音楽や雑音を司る右脳」に大別される。
  • 欧米人は虫の鳴き声を「雑音」として右脳で処理する傾向がある。
  • 一方、日本人は虫の鳴き声を「言葉」に近いものとして左脳で処理する傾向がある。

さらに角田氏は、日本語が母音を中心とした言語であるため、虫の鳴き声と日本語の音の周波数が似ていることが、この現象を生んでいると考えました。興味深いことに、ポリネシア人など一部の民族も日本人と同じく、虫の声を左脳で処理する傾向があると報告されています。

ただし、この説は完全に証明されたものではなく、反論や別の研究結果も存在します。そのため「日本人だけが」という断定は難しいものの、脳科学的に面白い仮説であることは間違いありません。


文化が育んだ「虫の声を聴く感性」

科学的な説明に加えて、文化的背景も非常に大きな要素です。

  • 日本では古代から、虫の声を「風情」として楽しんできました。『万葉集』や『源氏物語』には虫の声を詠む表現があり、江戸時代には「虫売り」が行商として街を歩き、人々は虫の声を鑑賞用として楽しんでいました。
  • 俳句や和歌では「虫」が秋の季語となり、文学や芸術の中で情緒を表す存在となりました。
  • つまり、日本文化の中では「虫=害虫」ではなく「季節を告げる声」として親しまれてきたのです。

一方で、西洋ではバッタやキリギリスはしばしば農作物を荒らす害虫として認識されてきました。そのため「鳴き声」も不快な音や警戒すべき音と捉えられがちで、文化的に排除する対象だったのです。


日本人が虫の声に抱く特別な感情

多くの日本人は、虫の声に寂しさ・郷愁・秋の訪れ・風情といった感情を重ねます。

例えば、鈴虫の鳴き声を聞くと「しっとりとした秋の夜」を思い出す人も多いでしょう。これは単なる自然音ではなく、私たちにとって**「心の音」**なのです。

脳科学的な違いに加え、長い歴史の中で育まれた文化と感性が、日本人をして「虫の声を声として聴く」存在にしてきたと言えるでしょう。


まとめ:虫の声に耳を澄ませてみよう

「日本人だけが虫の声を声として聴ける」という説は、脳科学と文化の両面から興味深いものです。証明はされていない部分もありますが、確かに日本人が虫の声を特別なものと感じるのは事実でしょう。

虫の声は、秋の訪れを知らせる自然のBGMであり、同時に私たちの心に働きかける情緒の音でもあります。

今年の秋の夜長、ぜひ一度スマホやテレビを消して、虫の声に耳を傾けてみてください。そこには、長い歴史の中で日本人が育んできた感性の豊かさが感じられるはずです。

それではまた別の記事でお会いしましょう


🟡 おまけコーナー:「明日って何の日?」

🌸9月21日

【ファッションショーの日】

ファッションショーの日は、1927年(昭和2年)9月21日に日本橋三越で日本初のファッションショーが開催されたことにちなんで、毎年9月21日に定められた記念日です。このファッションショーでは、一般から募集した図案の着物を初代・水谷八重子さんら3人の舞台女優がモデルとして紹介し、日本舞踊も披露されるなど、当時の人々に大きな話題となりました。